東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)156号 判決
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〔判決理由〕(本件審決の違法事由の存否)
二 原告は、請求原因四に主張の理由により、本件審決には判断を誤つた違法があるというけれども、その主張の採用できないことは、以下説明するとおりである。
(一)、原告の主張四の(一)について
引用例の実用新案公報によれば、引用例竹単板の第一、四層について、説明書中の「実用新案の説明」の項には、「ビニールその他の合成樹脂液を塗布して合成樹脂層3、4を形成」すること、およびその作用効果として、「両面に合成樹脂層3、4が形成されているから汚損したり水分を吸収して膨むような憂がない。」との記載があり、一方「登録請求の範囲」の項には「…その表裏両面に合成樹脂層3、4を形成して成る」というだけで、合成樹脂層形成の方法についてなにも特定されていないことを認めることができる。これによつてみれば、引用例の実用新案においては、右のように汚損や水分吸収を防止しうるよう表裏両面に合成樹脂層を設けること自体を要旨としたもので、その合成樹脂層を設ける方法のいかんを問わず、したがつて、説明書中の「ビニールその他の合成樹脂液を塗布」する旨の記載は、単なる一実施例の説明にすぎないと解すべきである。そして、<書証>によれば、本件特許の出願当時、右のように材面の保護および美化等の目的で板材の表面に合成樹脂層を積層する方法として、合成樹脂液を表面に塗布する方法のほか、合成樹脂板または合成樹脂含浸紙を表面に熱圧接着する方法が周知慣用されていたことが明らかであるから、本件特許出願当時の技術常識をもつてすれば、引用例の第一、四層を合成樹脂板等の熱圧接着方法により形成しうることは、容易に推察できたものといわねばならない。のみならず、塗布層を設ける場合、塗布液の濃度および塗布回数を適当に選択することにより、層の厚さを厚くしたり、溶剤の気化によるピンホールをなくすことは可能である一方、合成樹脂フイルム等の熱圧接着層を設ける場合にも、フイルムの厚さおよび加工の条件などにより、表層の水密気密性において、つねに塗布層より優れているとはいえないことも、経験則上みやすいところである。したがつて、本件特許発明による化粧シートの第一、四層は、単板および紙布層(すなわち第二、三層)の表裏両面からの水分吸収を防止するため、その表裏両面に合成樹脂による保護層を設けるという引用例と共通の目的(本件発明がこの目的を有することは、本件発明の特許公報により明らかである。)で、当時板材の表面に合成樹脂保護層を形成する方法として周知慣用の合成樹脂フイルムの熱圧方法を採用したにすぎないもので、引用例のものに比し、作用効果において格別のものもなく、そこに特許に値する発明思想のみるべきものはないといわざるをえない。
(二)、原告の主張四の(二)および(三)について
本件発明は第一ないし第五層を加熱加圧により一体化するものであることは、前記争いのない本件発明の要旨に照らし明らかであり、引用例が本件発明の第五、六層に相当するものを有しないことは、被告の明らかに争わないところである。本件発明は、その作用効果としては、第一、四層による表裏両面からの防水効果のほか、第五層に第六層(接着剤塗布層)を設けたことによる被着物への貼着施工の簡易化を狙いとしているものであることが認められ、この後者の目的のため、第五層は六層接着剤の支持体として植物繊維または化学繊維等の紙をもつて形成し、これを第一ないし第四層と強固に接着するため、これら五層を重ね合わせて加熱加圧の下に一体化し、ついで第五層の下面に接着剤を塗布することとしたものである。したがつて、第五層は、第六層接着剤層の支持体であると同時に、これと第一ないし第四層を結合する仲介物として重要な作用をもつものであることは、原告の指摘するとおりであろう。
しかしながら、本件審決のいうように、あらかじめ基材に水、熱あるいは圧力などで活性化する接着剤を塗布し、施工を簡易化するようなことは、印刷レベル、切手などにみられる慣用の技術手段であるから、この慣用の手段を化粧シートに応用すること、およびその応用にあたり、第四層合成樹脂層に直接右の接着剤を塗布するかわりに、接着剤との親和性に富む繊維層を介在させるようなことは、格別の発明力を要しないで当業者の想到しうるところであり、また、これら第一ないし第五層を一体化する手段としての加熱加圧の工程も、前記のとおり合成樹脂積層体の成形方法として本件特許出願前より周知の方法を用いたにすぎず、結局、本件発明における第五、六層に関しても、そこに格別の発明思想を認めることはできない(本件発明が合成樹脂フイルムの加熱加圧方法を採用したことによる防水効果が、引用例との対比において格別のもののないことは、前記のとおりであり、また、加熱加圧によりシートの表面を平滑、柔軟、美麗ならしめる等の効果があるとしても、そのような加熱加圧方法自体すでに周知であり、したがつて、かかる効果もすでに周知のものであつたことは明らかであるから、この点についての原告の主張は失当である。)。
(三)、原告の主張四の(四)について
本件審決は、本件発明と引用例との対比にあたり、本件発明の製造方法による製品と引用例の物品との構造上の異同を論じただけではなく、本件発明の化粧シートの「製造方法」が、引用例記載の技術思想および慣用の技術から当業者が容易に発明をすることができたものであることを理由として、本件発明の進歩性を否定した趣旨であることは、審決自体から明らかであるから、原告のこの点の主張は採用できない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして、本件審決の取消しを求める原告の請求は失当として棄却……する。(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)